愛は嫌いなんだ



教室のドアを開けるとざわざわとした会話の波に飲まれそうになる。
自席に着き、巾着袋から制服を引っ張り出すと

「熊木」

どきっ、と心臓が跳ねた。
そっと顔を上げる。

「や、山谷君」

はじめて彼の名前を呼んだ。
意識すると顔が熱くなって、
ふいと顔をそむけてしまって、
また心臓が主張してくる。
山谷君は相変わらず優しい声色で言った。

「さっきの、気にしなくていいから」

ふと、考える。
山谷君のいう『 さっきの 』とはなんだろう。

「一生懸命やれば大丈夫だから」

もしかしてフォローしようとしてくれてる?
あたしは顔を上げて、こくりと頷く。
山谷君はにっと笑って、自席に戻る。
すぐに山谷君の笑い声が聞こえてきて、
その笑い声にあたし自身が嬉しくなった。