あたしの五十メートル走最高記録は十秒〇八。 九秒にも満たない足の遅さが大の欠点。 この短所で何度学校生活を踏みにじられてきたかと思うと、あたし自身が呆れてしまう。 飛んでくるヤジにはもう慣れた。 あたしはガラスのハートなんかじゃない。 だけどやっぱり注目されて、バカにされるのは、恥ずかしい。 あたしはうつ向きながら、テイクオーバーゾーンに入る。 「大丈夫、ゆっくりでいいよ」 優しい声が上から降ってきた。