「亮くんッ…」

私は近付いて手を握った。

「…みなみ」

亮くんは目を閉じたまま、口を開いた。

「生きていてくれて…よかった」

「なんで…なんで、私は死んだんじゃなかったの?」

「生きてた、なんて言ったら尚更あの世界に残ろうとしただろ」

「それは…」

「俺さ、バスが海に落ちた瞬間、みなみのこと守らなきゃって思った。だから、生きてくれていて嬉しいよ…」

「うん…」

「みなみが違う世界の人間だって気付いてもらいたくて、命と引き換えに転校生になったんだ…松岡蒼として。」

「あの名前は…」

「蒼?海って青いからさ、単純だけど、思い出してくれるかなと思って」

ゴホッゴホッ

「亮くん?」

私は亮くんの様子が変なことに気付いた。
さっきから咳ばかりしていて、辛そうだ。

「あぁ、俺、もうダメかも…みなみのこと守れたって思うと、もう悔いなんかないや」

「嫌だよ!まだ死んじゃダメ!」

亮くんは私の手をギュッと握り返した。

「今度こそ、本当にじゃあな…みなみ」

亮くんはそういうと、静かに目を閉じた。

「いっ、嫌ぁぁぁあ!!」

さよなら、亮くん。
私はその日、目が真っ赤に腫れるまで泣き続けた。