ハッピーエンドの描き方

「もう片方の靴は、ここにあります」


私の手の中で、小さなガラスの靴がきらめいている。

目の前にいるのは、義理の母と二人の義理の姉。

そして、割れてしまったガラスの靴を前にして困り果てていた初老の男性。

イギリス王室の制服のような容姿の男は、ガラスの靴を握る私を見て顔を輝かせた。


「こちらへ……」


男に促されるまま、用意された椅子に腰かけ、ガラスの靴を男に差し出す。


「失礼いたします」


ガラスの靴を受け取った男は、ゆっくりとした動作で私の足に靴をはめる。

姉たちには小さすぎたその靴は、私の足にピッタリとはまった。

義理の母と姉たちからは、悲鳴に近いような声が上がる。

反対に、男は満面の笑顔で私の手を引いた。


「王子との結婚を、していただけますか?」


私が頷くと、どこからともなく教会の鐘が響く。

いつの間にかお城についていて、私の傍らには若い王子が付き添い、幸せそうな笑顔を浮かべていた。

目の前には牧師さん。

純白のドレスに身を包んだ私を、国中の人々が見守っている。

最高の気分だった。

目の前にいる王子の輝く目を真っ直ぐに見つめる。

彼は私の両手を柔らかく握り、暖かい声で語りかけた。



「やっと、あなたに出会うことができた……。 

お名前は?」

「私の名前は……、守野薫」


頭一つ分私より背の高い王子は、輝く笑顔を向ける。

そして、ベールをめくると、ゆっくりと私に顔を近づけてきた。

しかし、背の高い王子の唇は、なかなか私のもとに来ない。

我慢できずに、なれないヒールを履いた足で背伸びをする。

もう少しで、王子様と真実のキスが交わせる……。

そして、前につんのめった。

バランスを崩したわたしは、そのまま前に倒れ、頭から床に着地をする羽目になった。