東条茂人さんは、岩肌にしがみついていた。降りていけるような足場はない。
芝生の端から、でこぼこした岩肌をつかみながらじわじわ降りたとしか思えない。
私は手提げの中を探った。ロープなんて、持ってない。ここで使えそうなものは何も入ってない。それに、東条茂人さんを持ち上げるだけの力もない。
一体、どうしたらいいんだろう。私は途方にくれた。一瞬、じわりと涙が出かかったけど、ぐっとこらえた。
泣いてる場合じゃない。それに、泣きたいのは、というか一番困っているのは東条茂人さんだ。
「誰か呼んでくる。コカナタくん、ここにいてね。私が来た時すぐにわかるように」
私はそっとコカナタくんを芝生の上に降ろした。
「待って、美緒ちゃん」
コカナタくんは私を呼び止めると、にこっと笑った。とても大人びた微笑みだった。
「大丈夫」
コカナタくんは目を閉じて手のひらをお祈りする時みたいにぴたりと合わせた。
そのまま大きく息を吸い込んで、一気に口から息を吐き出した。
私は目を見開いてコカナタくんを見ていた。
コカナタくんは、縦にも横にもぐんぐん大きくなって、・・・・・・とうとうカナタさんになった。
驚いて何も言えない私に、カナタさんが言った。
「コカナタくんは分身だって、言ったよね」
「ということは、あなたはカナタさんじゃなくて、分身の方ですか」
「そういうこと。よろしくね、美緒ちゃん」
分身さんは、カナタさんそっくりに笑いかける。
「うおおおおおい。まだだいぶかかるんかのう。そろそろ限界なんじゃが」
東条茂人さんが、私とカナタさんを見上げていた。
芝生の端から、でこぼこした岩肌をつかみながらじわじわ降りたとしか思えない。
私は手提げの中を探った。ロープなんて、持ってない。ここで使えそうなものは何も入ってない。それに、東条茂人さんを持ち上げるだけの力もない。
一体、どうしたらいいんだろう。私は途方にくれた。一瞬、じわりと涙が出かかったけど、ぐっとこらえた。
泣いてる場合じゃない。それに、泣きたいのは、というか一番困っているのは東条茂人さんだ。
「誰か呼んでくる。コカナタくん、ここにいてね。私が来た時すぐにわかるように」
私はそっとコカナタくんを芝生の上に降ろした。
「待って、美緒ちゃん」
コカナタくんは私を呼び止めると、にこっと笑った。とても大人びた微笑みだった。
「大丈夫」
コカナタくんは目を閉じて手のひらをお祈りする時みたいにぴたりと合わせた。
そのまま大きく息を吸い込んで、一気に口から息を吐き出した。
私は目を見開いてコカナタくんを見ていた。
コカナタくんは、縦にも横にもぐんぐん大きくなって、・・・・・・とうとうカナタさんになった。
驚いて何も言えない私に、カナタさんが言った。
「コカナタくんは分身だって、言ったよね」
「ということは、あなたはカナタさんじゃなくて、分身の方ですか」
「そういうこと。よろしくね、美緒ちゃん」
分身さんは、カナタさんそっくりに笑いかける。
「うおおおおおい。まだだいぶかかるんかのう。そろそろ限界なんじゃが」
東条茂人さんが、私とカナタさんを見上げていた。

