きみに会える場所~空の上ホテル~

「もももももう、大丈夫です。ああああありがとうございました」

私は、上半身を起こした。

「そう?」

謎の人も起き上がった。目が笑ってる。この人、絶対に私のことからかってる。

とっても優しいし見た目もばっちり素敵な人だけど、こんな人が恋人だったら、ものすごく苦労するんだろうなあ。

「はい、これ。美緒ちゃんのだろ?」

男の人が、ほこりを払って手提げを手渡してくれた。名前を覚えていてくれたんだ。なんかじんとした。

「ありがとうございます。・・・・・・あのっ」

「ん?」

「名前、教えて下さい。私の頭の中じゃ、あなたはいつも『謎の人』か『男の人』なんです。二度も助けてもらったのに、名前も知らないなんて」

男の人は、ぷはっと笑った。

「『謎の人』ってのも、捨てがたいけどね。『紫のバラの人』みたいで」

「は?」

「いや、わかんなかったらいいんだ」

「おれはカナタといいます。よろしく、美緒ちゃん」

謎の人改めカナタさんは、すっと右手を差し出した。そのしぐさがあまりに自然でかっこよくて、ほれぼれしてしまった。大人だなあ、やっぱり。

「こここここちらこそ、よよよよよろしくお願いしまっす」

・・・・・・ダメだあ。緊張するとどうもうまく舌が回らない。

私の手を握り返すカナタさんの手がぷるぷる震えてる。でも、こっちは緊張じゃない。

カナタさんはくるりと顔を背けると、大爆笑した。