きみに会える場所~空の上ホテル~

コツ、コツ、コツ、コツ。

自分一人だけの靴音が廊下に響く。

人と話をしている時って、今目の前にいるその人に気持ちが集中してるからいろんなこと考えずにすむ。

だけど、一人になるとそうもいかない。

どうしても思い出してしまう。エレベーターのところにいたレイと、誰かのことを。



あんな風におだやかな笑顔で、そっとささやいてほしかった。


そっとキスをしてほしかった。


事故で唇がふれただけとかじゃなくて、自分の意思でキスをしてほしかった。



今はまだ対象外でも、いつかそんな風になっていけたらって、夢を見ていたかった。



また涙があふれてきた。・・・・・・でも、誰も見ていないからいいや。


私は、感情に流されるままに、ぼろぼろと涙を流して歩いた。


裏口のドアを押し開けて野菜畑を進む。ずんずん進む。果樹園に入った。どんどん歩く。

いずれ門が見えてくるだろう。こんなに涙で目が曇ってちゃ、門を見落としてしまうかもしれない。

ごしごしと目をこすった。

もうレイのことは考えないようにしなくちゃ。


もうレイのことは忘れなくちゃ。


もうレイのことは・・・・・・。



そんな簡単に、忘れられない。


だって、初めて好きになった人だから。

「~~~」

声にならない泣き声がもれる。涙があふれてくる。

手で涙をぬぐいながら歩いた。何かにつまずいて思い切り転んだ。