きみに会える場所~空の上ホテル~

奈美ばあちゃんは、調理台の上からメモを取った。隣からのぞき込む。

「東条茂人さん? まだホテルに着いてないっていう人だね」

「ああ。もうとっくに着いてなきゃおかしいんだよ」

奈美ばあちゃんは私をじいっと見つめた。おばあちゃん、ものすごく緊張してる。

「美緒。この人を迎えに行ってくれないかい?」

「うん。いいよ」

私はあっさりと答えた。どんな頼みだって受けるつもりだったから、何の迷いもなかった。

「本当はこんなこと頼んじゃいけないんだろうけど、あたしはここを離れられないから」

「大丈夫だって。それで、どこへ行けばいいの?」

「ええと、ちょっと待っておくれよ。確か、どこかに・・・・・・」

奈美ばあちゃんは、前掛けや服のポケットをぱたぱたとはたいた。

「あ、あったあった」

お尻のポケットから、折りたたんだ紙切れを大事そうに取り出した。

受け取って、そっと広げる。かなりの年代物だ。

「ようこそ、空の上ホテルへ」

いきなり文字が飛び込んできた。

「ここは癒しの空間 落ち着いた雰囲気の中で あなたの人生を もう一度 見つめなおしてみませんか」

・・・・・・それは、空の上ホテルのパンフレットだった。カフェオレみたいな色の建物の写真が大きく写っていた。

ふーん。外から見たら、こんななんだ。

「ここ。ここを見てみな」

奈美ばあちゃんが、ぴっと指をさす。

交通アクセス、と書かれたところに小さく地図が載っていた。

「これはホテルまでの地図。ここが空の上ホテル。この道を逆にたどって行けば、必ずどこかにいるはずなんだよ」

奈美ばあちゃんは地図を食い入るように見つめていた。

「わかった。この地図を見ながら迎えに行ってくるよ」