きみに会える場所~空の上ホテル~

「奈美ばあちゃん、このメモは何?」

「ああ。お客様に出す食事だよ。その人が一番食べたいと思ってる料理を出すきまりなんだ」

お客様・・・・・・ということは、もう亡くなってる人たちだ。ここで、奈美ばあちゃんが作った料理を食べて、旅立って行くんだな。そう言えば、ゆり子先輩はどうたったんだろう?

「こんなこと聞いていいのかどうかわからないけど、林原ゆり子さんの最後の食事は何だったの?」

林原ゆり子、林原ゆり子・・・・・・と、奈美ばあちゃんはこめかみをとんとんとつついた。

「ああ! あの人ねえ」

意味ありげに私を見てにやりと笑った。

「あの人には苦労させられたよ。全然オーダーが決まらないんだ。料理に対する思い入れが特になかったんだろうね」

「それで? 結局どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよ。アフタヌーンティーセットとポテトチップスで終わりさ。あんたも一緒に食べたんだろ?」

私はゆり子先輩と過ごした時間を思い出していた。放課後みたいな不思議な時間だった。

「最後の食事がポテトチップスとは驚いたよ」

奈美ばあちゃんがひざの上からおせんべいのかけらを払った。

「・・・・・・でも、あの人にはあの人の思いがあるんだろうね。傍からは見えなくてもさ」

うん、と私はつぶやいた。ゆり子先輩は楽しそうだった。だからあれでよかったんだと思う。

しばらくの間、私も奈美ばあちゃんも何も言わずに物思いにふけっていた。

壁に取り付けられた電話がプルルルルと鳴った。