てくてくてくてく。私はサキさんに押されるようにして歩いていく。

ああ、ここは来たことがある。前にサキさんのなくし物を探しに行く時に通った廊下だ。もう少ししたら「従業員以外立ち入り禁止」みたいな貼り紙がはってあるんだ、きっと。

「サキさん、今レイがね、誰かを抱き寄せてキスしたの」

サキさんは何も言わない。

「すごく優しい感じで誰かの耳元でささやいてた。なんかね、映画みたいだったよ」

そう、すごくすごく絵になっていた。相変わらずかっこよかった。

・・・・・・相手の人の顔がよくわからなかったのが、救いだな。はっきり見えてたら、今頃ずたぼろだったろうな。

でも、わざわざあんなところ目撃しなくてもいいのになあ。

その間の悪さに、自分でもおかしくて笑っちゃいそうになる。

「あっという間に失恋しちゃった。ははっ。世界最速??」

「もう黙って」

サキさんは従業員しか入れない扉を開くと、私を中へと押した。肩にかけていた手を外すと、私の頭をよしよしとなでた。

私の後ろで扉が閉まった。

それが合図だったみたいに、涙がぼろぼろとこぼれた。

私はサキさんに頭をなでられながら、子供のように泣き続けた。