「空の上ホテル」を初めて訪れてから一週間が過ぎた。

あの日から一度もあそこへは行っていない。うたたねすることもあるし、夜もぐっすり寝てるけど、一度も行ってない。

ひざの擦り傷はもうすっかり消えていた。ばんそうこうはティッシュにくるんで、大事に机の引き出しに入れてある。

ゆり子先輩がサインしてくれた手帳は、手提げにそのまま入れてある。図書館に行く途中のバスの中で毎日のように開いている。

今日もそう。今となっては、この手帳はお守りみたいなものだった。

私はそっと手帳を閉じると、ため息まじりに窓の外を見た。空も私と同じでどんより曇ってる。

レイやサキさんやゆり子先輩、あの空の上ホテルで出会った人たちの顔を、もうはっきりとは思い描けない。

その時の雰囲気やしぐさは覚えていても、レイがどんな目をしていたか、ぼんやりとしか思い出せない。

記憶力ないなあ。私は自分に少しがっかりしていた。

あの時の気持ちや胸の高鳴りは今もはっきりと残ってるのに、自分の好きな人の顔さえきちんと覚えていられないなんて。

私は窓に頬を寄せた。雨のしずくが細い点になって、外を伝った。

レイに会いたい。ずっとそう思ってるのに、会えない。


・・・・・・もう私の助けを必要としてる人なんて、あそこにいないのかな。

レイに会いたい。レイに会いたい。レイに会いたい。

涙が一筋ほほを流れた。

斜め横に立っているおばさんが、ぎょっとしてこっちを見ている気配がした。

目を閉じて下を向いて視線を避けた。

途端に睡魔が襲ってきた。昨日の夜はこのままレイの顔を忘れてしまうんじゃないかと心配になってうまく眠れなかった。

レイのきりっとした目。ひどい言葉がぽんぽん飛び出す薄い唇。

・・・・・・でも、もうぼんやりとしか思い出せない。

涙がもう一筋流れた感覚を最後に、私はすとんと眠りに落ちた。