きみに会える場所~空の上ホテル~

シチューとサラダの夕食をささっと済ませる。食器を洗ってから、お風呂に入る。

ひざのすり傷は、全然たいしたことないけど、今日一日だけはばんそうこうを貼ったままにしておこう。

お風呂から出てくると、つけっぱなしのテレビにゆり子先輩が映っていた。

大女優林原ゆり子を追悼する特番のようだった。

有名な俳優たちが涙を浮かべながら、ゆり子さんの思い出を語っていた。

私はテレビを消した。いろんな話を聞いてしまったら、今日出会ったゆり子先輩と私の思い出が薄れてしまうような気がした。

いつかどこかで、ゆり子先輩の話を耳にすることもあると思う。なんと言っても私ですら名前と顔を知っていた大女優なんだし。

でも、それは今日じゃなくていい。

リビングのテーブルの上に置きっぱなしにしていた手提げから、手帳を取り出す。

ゆり子さんが「後輩の美緒ちゃんへ」と書いてくれたページを広げる。

いろんな内緒の話を思い出して、一人でくすくすと笑った。



もう、ゆり子先輩とは二度と会えないんだなあ。

急にさびしさがこみ上げてきて、涙がぽろぽろとこぼれた。

どうか、空の上ホテルを出てからも、先輩が笑っていますように。