きみに会える場所~空の上ホテル~

「もしもし? ええ、はい。……ええ、これから出るところ。ええ、また後で」

通話を終えた母さんは、私を見て首を振った。というか首を振っている気配がした。

うつむいてたから、はっきりとはわからない。

もう私にかまっている時間がなくなったのか、母さんは私の前を通り過ぎ、リビングのソファーの上に置いてあった赤いバッグをつかんだ。

「戸締まりお願いね」
そのまま玄関へと急ぐ。

私は母さんの後ろをぱたぱたとついて行った。正直、ほっとしていた。

「いってらっしゃい」

母さんはちょっとうなずくと、ヒールをカツカツ鳴らして出て行った。