きみに会える場所~空の上ホテル~

「・・・・・・で、愛想よくワゴンを持ってきたはいいが、どこへ持ってきゃいいかわかんなくておれに押し付けると」

カウンター越しにレイがむすっとして私を見る。

「だって、ゆり子先輩、なんか急いでるみたいだったし。どうせ呼ばれたらレイが片付けなくちゃいけなかったんでしょ、それ」

じろりとにらみつけられる。

「・・・・・・すみません。どこに持って行けばいいのかわかりません。このワゴン、どこに片付ければいいのか教えてくれませんか」

「最初からそういう風に言えよ」

ぶつぶつ言いながらカウンターから出てくると、私の手からぐいとワゴンをもぎとった。

「貸せよ。おれが片付けとくから」

「あ、ありがとう」

「いいよ。元々おれの仕事だし、いちいち場所教えるのも面倒だしな」

なんでいつも一言多いかな。

「それよか、お前もう帰った方がいいんじゃないか」

「え? でも私まだ」

まだこれから困ってる人を見つけないと。

「帰れるよ多分」

目をぱちくりさせている私を見て、レイはため息をついた。

「お前、とことん鈍いのな。いいか、お前はたった今、困ってた人を助けてきたばっかなの」

「誰を」

「林原ゆり子だよ」

私は目を見開いた。手をパタパタと振る。

「えっ、ないない。それはないよ」

レイはワゴンに載った皿をきちんと重ねていった。

「あの人はな、人生に未練たらたらだったんだよ。どっかで人生間違ったんじゃないかってな」

「えっ」

そんな、あのゆり子先輩が?!

「ここは死んだ人間が、自分の人生を見つめなおす場所。ここできちんと納得できなきゃ次のステップには進めない」

私はゆり子さんとの会話を思い出していた。「不安」「別の生き方もあったんじゃないかって」確かにゆり子さん、そう言ってた。

「だけど、能天気なお前と話したからかなんかしらんが、あの人は自分の人生を受け入れたんだ。きっと今頃は次へ進むための準備をしてるんだろう」

「・・・・・・うん」

そうだね。ゆり子さんはきっときちんと着物を着て、お化粧もして髪も整えてるんだろうな。鏡を見ながら、今まで生きてきた時と同じようにすみずみまできちんと、真剣に。