きみに会える場所~空の上ホテル~

林原ゆり子さんは、そわそわと立ち上がった。
「私、そろそろ着物にするわ。支度を始めないと」

「じゃあ、私、帰ります」

「紅茶を下げてもらわなくてはね」

受話器をとるゆり子さんに、言った。

「私が下まで持って行きます。場所はわかりますから」

「そう? 悪いわね」

私は手提げを肩にかけると、紅茶のセットやなんかを全部ワゴンに戻した。

カラカラカラとワゴンを押して廊下へ出る。

ゆり子さんは戸口までジャージ姿のままでやってきた。ゆり子さんには悪いけど、やっぱり似合ってない。

大女優のオーラ出まくりのゆり子さんに、普通の格好は似合わない。

でもそれでいいんだと思う。

「ケーキご馳走様でした。ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとう。楽しかったわ」

ほほえみあって、別れた。

私はワゴンをカラカラと押して歩いた。後ろでドアが閉まる音が聞こえた。

さようなら、ゆり子先輩。