でも、そろそろ帰った方がいいんだろうな。
私はどっちつかずの気持ちのまま、手提げを手に取った。
中途半端さが災いして、手提げはするりと手からすべり落ちた。
ガシャガシャーン。
手提げの中のペンケースが激しい音を立てた。
「わっ、すいません」
あわてて手提げを拾い上げる。ちらっと中を見ると、ペンケースのふたが開いて、ペンや消しゴムがぐしゃぐしゃと手提げの中に散らばっていた。
あーあ、手帳のページが折れて、中にペンがはさまっちゃってる。・・・・・・これだけは我慢できない。
私はささっと手を伸ばし、手帳の中からペンを救い出すとページの折り目を直した。
そして、不意にひらめいた。
「ゆり子先輩、サイン、お願いできますか」
先輩はゆっくりとうなずいた。私は手帳とペンを差し出した。
さらさらとペンを走らせる音がする。
「あて名は? 名前はなんていうの?」
「美緒です。美しいに『由緒ある』の『ショ』で美緒といいます」
「美緒ちゃんね。・・・・・・はい」
手帳には、流れるようなサインと「後輩の美緒ちゃんへ」と書かれた文字が躍っていた。
書道の時間にお手本で出てくるようなきれいな字だった。
「ありがとうございます、先輩」
お礼を言って顔を上げると、ゆり子先輩の顔つきがさっきまでと微妙に変わっていた。同じ先輩の顔なんだけど、すっきりしたような楽しそうな顔。
「先輩?」
「うん、別の生き方にも興味なかったって言えば嘘になるけど、やっぱり私はこの生き方で間違ってなかったと思うわ」
先輩は一人でうんうんとうなずいている。
「何だか今、再認識しちゃったわ。ありがとう、美緒ちゃん」
先輩、すごく生き生きしてる。さっきまでの穏やかさがどんどん華やかさに変わっていく。目の前にいるのは、まぎれもない大女優の林原ゆり子さんだ。
私はどっちつかずの気持ちのまま、手提げを手に取った。
中途半端さが災いして、手提げはするりと手からすべり落ちた。
ガシャガシャーン。
手提げの中のペンケースが激しい音を立てた。
「わっ、すいません」
あわてて手提げを拾い上げる。ちらっと中を見ると、ペンケースのふたが開いて、ペンや消しゴムがぐしゃぐしゃと手提げの中に散らばっていた。
あーあ、手帳のページが折れて、中にペンがはさまっちゃってる。・・・・・・これだけは我慢できない。
私はささっと手を伸ばし、手帳の中からペンを救い出すとページの折り目を直した。
そして、不意にひらめいた。
「ゆり子先輩、サイン、お願いできますか」
先輩はゆっくりとうなずいた。私は手帳とペンを差し出した。
さらさらとペンを走らせる音がする。
「あて名は? 名前はなんていうの?」
「美緒です。美しいに『由緒ある』の『ショ』で美緒といいます」
「美緒ちゃんね。・・・・・・はい」
手帳には、流れるようなサインと「後輩の美緒ちゃんへ」と書かれた文字が躍っていた。
書道の時間にお手本で出てくるようなきれいな字だった。
「ありがとうございます、先輩」
お礼を言って顔を上げると、ゆり子先輩の顔つきがさっきまでと微妙に変わっていた。同じ先輩の顔なんだけど、すっきりしたような楽しそうな顔。
「先輩?」
「うん、別の生き方にも興味なかったって言えば嘘になるけど、やっぱり私はこの生き方で間違ってなかったと思うわ」
先輩は一人でうんうんとうなずいている。
「何だか今、再認識しちゃったわ。ありがとう、美緒ちゃん」
先輩、すごく生き生きしてる。さっきまでの穏やかさがどんどん華やかさに変わっていく。目の前にいるのは、まぎれもない大女優の林原ゆり子さんだ。

