きみに会える場所~空の上ホテル~

「もっと別の生き方?」

「そう。例えば、ちゃんと学校を卒業して、就職して、結婚して、子供を産んで育てて。家族みんなのためにおいしい料理を作ったり、家の中をきれいにしたりする、そういう生き方」

私は目を丸くした。大女優の林原ゆり子さんがそんなこと考えてたなんて。

「まあ、ごくたまに思ったというだけなんだけれど」

ぶっちゃけ過ぎたと思ったのかな。ゆり子先輩はごまかすように咳払いをした。

「でも、今日はほんの少し、そういう生き方ができたわ」

「え?」

ゆり子さんはふふふと笑った。

「先輩とか後輩とかちょっと憧れだったのよ。誰かの部屋に集まってパジャマで告白大会とか。・・・・・・ずっと前にドラマでやった時は、見回りの先生の役だったし」

ゆり子先輩・・・・・・。

先輩は、私の目を正面からじいっと見つめた。穏やかに微笑みながら。

「あなたにここで会えてよかった。ありがとうね、私のわがままにつきあってくれて」

私はぶんぶん首を振った。そんな風に言われたら胸がぎゅっと詰まって涙が出そうになる。

「そんな、つきあっただなんて。・・・・・・私こそ、いっぱい話ができてうれしかったです」

普段、私、こんなにしゃべる方じゃないのに。何でだろう。ゆり子さんにはガンガン話せた。




だけど、楽しい時間はそろそろ終わりなんだな、きっと。

「紅茶とケーキ、おいしかったです。ご馳走様でした」
ぺこりと頭を下げる。

「いいのよ、先輩のおごり」
ゆり子先輩も、しんみりしている。


そろそろお別れの時なんだろうけど、なかなか踏ん切りがつかない。

だって、ここを出たら、もう絶対に先輩には会えない。きっと。