きみに会える場所~空の上ホテル~

男の人の眉がかすかに動いた。
「おかしいな。お名前がありませんね」

私は大きくうなずいた。ようやく状況を説明できる。
「ええ。さっき気がついたら」

しかし、男の人は私をまるっきり無視して何度もキーを叩いた。カチャカチャ、タンッ。カチャカチャ、タンッ。

繰り返すたびに早くなっていく。なんかイライラしているみたい。

「やっぱりない」




途端に、男の人の態度が一変した。切れ長の鋭い目が、私を胡散臭そうに見た。

「お前、一体何なんだよ」

「え?」
今、「お前」って言った?

「ここはお前なんかが来るところじゃない。とっとと帰れ」
しっしっと追い払うような仕草をする。



私はしばらくその場に立ち尽くしていた。何、この変わり様は?

目の前の男は、さっきまでの穏やかでやさしい人とはまるで別人だった。

どきどきした気持ちがさーっと引いていき、何だかだまされたみたいな悔しい気持ちだけが残った。

男の人は、私には一瞥もくれずパソコンの操作をしている。

私は唇をかみ締めて背を向けた。・・・・・・この夢は悪夢に違いない。

大股でずんずん歩き、絨毯を横切り、回転扉に手をかけた。

そのまま、扉を押して外へ出た。