よかった。空いてる。

私は前から三番目の席に座った。今日はいい天気だったし、時間もまだ早いから、バスの中はそんなに混んでない。

膝の上に手提げを置くと、ほおづえをついて外を眺めた。ハンバーガー屋の前に集まってる五人くらいのグループや街を歩くカップルをぼんやりと見ていた。

ほおづえをついた左手の指先で、なんとなく唇にふれてみた。電気が走ったみたいにびりっとした。・・・・・・なんだろう、この感じ。

胸の奥がうずくみたいな、頬が熱くなるような不思議な感じ。

他の指でも唇をそっとさわってみる。やけどしたみたいに唇がじんじんする。体中の神経が唇に集中してるみたい。

何度かふれているうちに、記憶が鮮やかによみがえってきた。

「レイ・・・・・・」

ううん、レイだけじゃない。ゴージャスなサキさんに、ナミばあちゃん、そしてあの謎の人。夢かもしれないけど、すごく素敵な夢だった。

夢かもしれない・・・・・・?

私は左手でそろそろとひざを探った。手でそこにある物の輪郭をなぞってみた。ちょっと手が震えた。

ばんそうこうだ。レイが、救護室で貼ってくれた、あのばんそうこう。

あの時、自分で結論づけたみたいに、やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。