きみに会える場所~空の上ホテル~

「あ、あのっ、そのっ、・・・・・・どうもありがとうごぜえました」
はっ。言い間違えた。駄目だあ。もうぼろぼろだあ。

真っ赤になってうつむいていると、男の人が大爆笑した。

「はははははは。ごぜえました? きみ、どこの人?」

そこまでウケなくても、とうらみがましい目を向けると、木の幹に手をついて体を折り曲げるようにして笑っている。

屈託なく笑う顔はいたずら好きの少年みたいだけど、大人な対応からすると、二十代後半くらいなのかな。

男の人は笑いをこらえてこっちを見た。
「はー。久々に馬鹿みたいに笑ってすっきりした。どうもありがとね、・・・・・・」

「あ、私、桜木美緒っていいます」
男の人はじっと私を見つめた。茶色い目がきらきら輝いている。ここの人たちって、どうしてこうも美形ぞろいなんだろう。

「美緒ちゃんか。いい名前だね」

「どっ、どうも」

ほめられなれてないから、顔がついつい赤くなってしまう。男の人はなおもじっと私を見つめている。

「美緒ちゃん、きみ・・・・・・」

「な、何でしょうか」

男の人はふっと視線をそらした。
「いや、何でもない。鼻の頭にちょっと脂が浮いてだだけ」

「やだ・・・・・・」

私は手の甲を鼻の頭に押し当てた。わっ、やっぱり浮いてる。

「さて、もうひと眠りしてくるかな。じゃあね、美緒ちゃん」

男の人は軽く手を挙げた。

「どうもありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をして顔を上げると、男の人はもう果樹園の奥へと歩き出していた。

余裕があって大人な人だったなあ。大爆笑されたけど。

・・・・・・あ、名前聞くの忘れた。またどこかで会えるかなあ。