きみに会える場所~空の上ホテル~

自分の部屋に帰り着くまで、何度も何度も管理室に引き返したい気になった。

でも、ぐっと我慢した。

部屋に戻ると、急いでシャワーを浴びる。いつもより丁寧に時間をかけて体を洗った。

やっぱり、フロントはホテルの顔だと思うから。

一体これから自分はどうなるのだろうかと不安に思いながらホテルの回転ドアをくぐる人だって、たくさんいるはず。

そんな人たちが安心できるような、というところまでは無理かもしれないけど、せめて不安を増大させないようなフロントでいたい。

シャワーを終えてドライヤーで髪を乾かしながらそんなことを考えた。

ハンガーにかけたフロント用の制服に丁寧にブラシをかける。

靴、ストッキング、ブラウス。明日必要な物を一つ一つ確認する。

よし、OK。

もう寝ようかとベッドに腰掛けた時、ベッドサイドに置いた芥子色のノートが目に入った。

カナタさん自作のマニュアルだ。タイトルは「空の上ホテルの全て」。

サキさんに、フロント業務のおさらいをしておくように言われてたんだっけ。

私はノートを手に取ると、「フロント業務について」のページをくまなく読んだ。



サキさんから教わり、今またカナタさんのマニュアルを読んで、少しだけ自信がついた。

私はほっと息をつくと、ノートのページを意味もなくぱらぱらとめくった。

昔から、本やノートのページをめくるのが好きだった。

少し乾燥した紙がたてるぱらぱらという音を聞いていると、なぜか心が落ち着いた。

私は顔にわずかな風を受けながら、延々とページをめくり続けた。

※マークが一瞬視界に入って手を止めた。

そのページに何気なく目を走らせて、あっと声をあげた。

そこには、「支配人専用パソコンについて」と書いてあった。