きみに会える場所~空の上ホテル~

仕事をしていると、何も考えなくてすむ。

お客さんが旅立った後の部屋に掃除機をかけていると、携帯が鳴った。掃除機のスイッチを切って携帯に出た。

「もしもし?」

「お疲れ様ー。サキです」

「お疲れ様です」

ほんとは、名前を聞かなくてもサキさんだってわかる。

この携帯は空の上ホテルの従業員みんなが持ってて、女の人は私の他にはサキさんだけだから。

「今、忙しい?」

「いえ、大丈夫です」

「実はカナタから管理室に来るように呼び出し受けちゃってね。悪いんだけど、少しの間、フロントにいてくれない?」

「え」

「入りのお客はもう来たし、出る人は出ちゃったから多分誰も来ないと思うんだけど」

「入り」は、チェックインのことで、「出る人」っていうのは、次のステップへ進むためにチェックアウトした人のことだ。

「困ったら携帯で呼んでくれたらすぐに戻るから。お願い」

サキさんにお願いって言われたら、嫌とはいえない。・・・・・・っていうか、多分私、誰の頼みも断れないような気がする。我ながら、気が弱いなあ。

「・・・・・・わかりました。これからそっちに行きます」

「ありがとう。助かるー」

サキさんのほっとした声が耳に響いた。こっちまでうれしくなるような声だ。

私は部屋の外へ出ると、ドアに「清掃中」の札をかけたままで下へ降りた。