きみに会える場所~空の上ホテル~

とりあえず、何とか耐えた。

泣かずに朝食を乗り切ると、自分の食器をシンクに持って行った。

食べ終わるのは、いつも私が最後だ。他の三人の食器もシンクに置いてある。

前にサキさんが洗い物をしようとしてくれたんだけど、断った。

洗い物は、私の唯一誇れる仕事だから。家にいる時もやってたから、ここでも難なくこなせた。

私は洗剤を含ませたスポンジをきゅっきゅっと握った。小さな泡がぷくぷく出た。

・・・・・・父さんと母さん、元気かなあ。もう随分長いこと顔を見てない。

っていうか、家のことを思い出したのは、ものすごく久しぶりだ。何か、ずっとここで暮らしてたみたいな気がしてた。

私、向こうではバスの中で居眠りしてるんだろうな、きっと。

こっちと向こうとでは時間の流れ方が違っていたとしても、これだけ長いことこっちにいるんだから、終点まで行っちゃってるかも。

バスの運転手さんも、私がなかなか起きなくて困ってるかもしれないな。

鍋に映る自分の顔に、ほんのり笑みが広がっていた。

鍋をじんわり動かすと、映っている顔があっちへ引きつったりこっちへのびたりして、笑える。

しばらく楽しんでいたけど、ここは家じゃないんだと気づいてやめた。

遊んでる場合じゃない。今日もやらなくちゃいけない仕事がたくさんあるんだ。

私は気合を入れなおすと、せっせと食器を洗った。