きみに会える場所~空の上ホテル~

包丁を持って、見よう見まねできゅうりを切っていく。

トン・・・・・・トン・・・・・・トン。

「・・・・・・どんだけ遅いんだよ」

レイがまたもやため息をついた。

「ちょっとくらい太くなってもかまわないから、もう少し早く切ってみろよ」

「う、うん」

私は包丁をしっかり握ると腕のいい料理人をイメージした。

トン、トン、トン、トン。

「おっ、なかなかいいぞ」

ほめられてうれしくなって、スピードを上げた。

トントントン、トントントン、トントントン・・・・・・。

調子に乗りすぎて、きゅうりをおさえていた人差し指の爪に包丁が当たった。

「きゃっ!」

あわてて指を引っ込めた。

「どうした? 切ったのか?!」

「ううん、大丈夫」

「見せてみろって」

レイがぐいっと私の左手を引っ張った。

「大丈夫だよ」

自分のダメさ加減が恥ずかしかった。心配してくれているレイに申し訳ない気がした。

「本当に大丈夫だから。心配ないよ」

レイは私の手を握りしめたままじっと見ていた。

「そんなにじっと見なくても、切ってないものは切ってないから」

冗談めかして言ったけど、レイはスルーした。

「レイ?」

レイは私の左手を離すと、今度は右手を握った。

「・・・・・・お前」

レイの切れ長の鋭い目が私をとらえた。吸い寄せられたみたいに目が離せない。胸の鼓動がだんだん早くなってる。レイが握り締めた右手が熱い。

「お前、夜におれのとこ来なかった?」