きみに会える場所~空の上ホテル~

「・・・・・・ったく、いつまでも料理当番サボってんじゃねーぞ」

レイがぶつぶつ言いながら材料を調理台の上に並べている。

私は自分のコックコートのすそを握りしめて、レイの広い背中をぼーっと見つめている。

今日から夕食後は料理の勉強。先生はレイだ。

現在しぶしぶながらコックをしているレイは、当然ながらコックコートを着ている。

なんで私までコックコートなのかというと、カナタさんが言ってくれたのだ。

「その制服じゃまずいでしょ。汚れるとクリーニング、大変なんだよね。コックコート使っていいよ。洗濯は美緒ちゃんってことで」って。

ということで、私は今、レイとペアルック。もう、うれしくて完全に舞い上がってる。

「おい、いつまでそんなとこに突っ立ってんだよ。早くこっち来いよ」

レイの声が飛んできた。きつく言われても何を言われてもドキドキだよ。

私はふらふらと調理台に向かった。

「おれと同い年なのに、料理一つできないなんてな。信じられねえよ」

あ、今のはちょっとぐさっときたかも。

「で、お前、包丁は使ったことあるの」

「し、失礼な。使ったことぐらいあるよ。果物切ったり、ハム切ったり」

「他には?」

「・・・・・・ちょっと思い当たらない」

「ねえのかよ」

ぐっ。言葉に詰まる。でも、ないものはない。

レイはあからさまに大きくため息をついた。

「いいか、今日は料理の基本。野菜の切り方を教える。まずはせん切り」

レイは台からきゅうりを取って、まな板の上に置いた。包丁を持ってトントントンとリズミカルに薄く切っていく。

長くてきれいな指がきゅうりをそっと押さえて、どんどんせん切りが出来ていく。私は吸い込まれるように見ていた。一本全部切り終わったレイが、私に言った。

「お前もやってみろ」

私は小さくうなずくときゅうりを手に取った。