私が空の上ホテルで働くようになってから、あっという間に三週間が過ぎた。

たった四人でホテルなんてやってけるのかなあとちょっと不安だったけど、一日にやってくるお客様は、多くて三人。中にはゼロって日もある。こうなってくると、金銭的にやってけるの?なんて心配しちゃう。

まあ、この世とあの世の境目みたいなところだから、通常の金銭感覚でははかれないのかもしれない。その辺はよくわかんない。

「お客様が来ないってことは、ひょっとして世界中で誰も亡くならなかったってこと?」って、この前サキさんに尋ねたら「そんな訳ないでしょ」って笑われた。

「『空の上ホテル』は、チェーン展開してるから、あちこちにたくさんあるの」

私は目を丸くした。チェーン展開なんて、コンビニや有名ラーメン店みたい。

「ちなみにこのホテルは1359番目の『空の上ホテル』よ」

サキさんはふふっと笑って付け加えた。


私の一日の仕事は、旅立ったお客様の部屋の掃除から始まる。シーツやタオル類の交換をして、備品をチェックする。歯磨きや歯ブラシが使用済みになってたら、新しいのを補充する。

その後で洗濯。夕方には野菜畑の近くの洗濯物干し場でシーツ類を取り込む。ぱりっと乾いたシーツをかごに入れる時が一番充実してるかも。

お客様の荷物運びは、フロントの手が空いていたらサキさんが、そうでない時は私がする。私は人見知りする方なので、最初はすごく緊張した。

でも、ここに来てるお客様は、すごく不安そうな人も多いから、私がおどおどしていては不安を煽るだけだって気がついた。だから、できるだけ落ち着いて接客するようにしてる。

・・・・・・なんて、知ったようなこと言ってるけど、それもこれもサキさんの接客態度やカナタさんのノートからの受け売りだ。

一日働いて、みんなで食べる食事は最高においしい。ここで働けて、本当に幸せだ。

食卓を四人で囲む。私の隣にサキさんがいて、サキさんの前にカナタさんがいて、私の前にはレイがいる。

好きな人と一緒に毎日ご飯が食べられるなんて、もう最高。たとえラブラブな関係でなくたって、すごくうれしい。

酢の物がちょっと苦手だとか、ハンバーグが好きだとか、どんどんレイのことを知っていける。リアルタイムで。目の前で。