きみに会える場所~空の上ホテル~

パソコンのディスプレイの隣に、大きなファイルが立てかけてある。背表紙に「注文マニュアル」と書いたシールが貼られていた。

私はファイルを開いてひざの上に置くと、画面と交互に見比べながらマウスを動かした。

何度かページをめくるうちに、注文の方法については何となく飲み込めた。

でも、実際何を注文したらいいのかよくわからない。・・・・・・とりあえず、着替えかな。

私は画面で衣料品のコーナーを開いた。種類が多すぎて目がちかちかした。全部見終わるのに、一体どれくらいかかるんだろう。

机の上で頬杖をついていたら、目の前に分厚い本が差し出された。

「これ使いなよ」

目を上げると、カナタさんが立っていた。

「カタログ。そこにある商品は全部これに載ってるから。このコード番号を注文ページで入力すればオッケーだよ」

「ありがとうございます!」

分厚いカタログをめくる。うん、こっちの方が断然早い。これなら何とかなりそう。

結局注文を全部終えるまで一時間かかった。着替えの他にも歯ブラシや洗面道具など一そろいを注文した。

パックやリップクリーム、アクセサリーなんかもカタログに載っていた。ちょっとだけ心が動いたけど、買わなかった。そもそも私は働くためにここにいるわけだし。

・・・・・・というのは言い訳で、本当は今までそういう物を買ったことがなかったから、どんなものを選べばいいのかよくわからなかった。

興味はある。大いにある。一応女の子だから。

でも、今までそんな話、誰ともしたことない。

母さんは勉強のことしか言わないし、父さんとそんな話は無理。第一、父さんはほとんど家にいない。

友達といえるような友達もいない。クラスメートの子たちとは普通に話すけど、特定の友達はいない。

・・・・・・これまでずっと何とも思わずに過ごしてきたけど、もしかして私の生活ってものすごく寂しいのかも。

口元に手をあててそんなことを考えていると、声が降ってきた。

「どしたの、美緒ちゃん。暗い顔して」

ん? って顔で、カナタさんが私を見つめていた。