きみに会える場所~空の上ホテル~

サキさんが、何か言おうとして口を開いた。

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

でも結局何も言わないで、サキさんは私の肩をぽんぽんとたたいた。

「・・・・・・それじゃ、おやすみ。注文のこと忘れないでね」

「おやすみなさい」

私はドアを閉めると、ベッドに座って大きく息をついた。

今日はとても長い一日だった。学校の図書館に行くバスに乗ったのは、本当に今朝のことだったっけ? もう二日ぐらいずっと起きてる気がする。シャワー浴びないと。

髪の毛を無意識にいじっていた。

視界の隅で何かが動いたような気がしてはっと顔を上げた。

鏡の中の自分が見返していた。

ホテルの部屋には壁の一部に大きな鏡が埋め込まれている。髪を直したりするのに便利かもしれないけど、慣れるまではこんな風に驚くんだろうなあ。

鏡の中の私は、疲れた顔をしていた。いっぱい泣いたから目も腫れぼったい。もうこのまま寝てしまいたい。

ひざの上に置いた芥子色のノートをめくる。一ページ目からカナタさんの几帳面な字が並んでいる。

~このホテルは特別なホテルです。

お客様はたった一度しかここにはいらっしゃいません。

お客様が気持ちよく次のステップに臨めるよう

われわれは自分たちにできる精一杯のことをやりましょう~



自分たちにできる精一杯のこと-。




「仕方ない。注文すませてこようっと」

私はよしっと気合を入れて立ち上がった。