きみに会える場所~空の上ホテル~

さっき林原ゆり子さん(呼び捨ては失礼だよね)を案内していたお姉さんだ。

栗色の長い髪をきりっとまとめている。すっきり通った鼻筋、ぱっちりした瞳。

私が男だったら、間違いなく恋に落ちちゃうな。

「やだ、あなた怪我してるじゃない」

見ると、ひざからじくじくと血がにじんでいた。

「だ、大丈夫です。転んですりむいただけだから」

あわてて立ち上がろうとすると、お姉さんが手で制した。後ろを振り返る。

「レイ、救護室まで連れてってあげて」

カウンターの向こうにいたさっきの男が、顔をしかめた。

「何でおれが」
「そんな、いいです、たいした怪我じゃないし」

「つべこべ言わない!」

体が思わずびくんとした。きれいな人が大声出すと、迫力あるなあ。

男がしぶしぶ出てくるのがわかった。私は思わず目をふせた。

コツコツコツコツ。靴の音がだんだん近づいてくる。


不意に靴音が途切れたと思ったら、目の前に男の背中があった。

「え?」

レイと呼ばれた男が、ちらりとこっちを見た。
「おぶされって」

「ええっ?!」

思わず声が裏返った。弾みで顔が赤くなる。私は男の広い背中を見つめた。黒い上着にはほこりひとつついていない。

「ズボンにしわができちまうだろうが。早くしろっ」

「は、はいっ」

私は男の背中に体を預けた。

どうしよう。心臓の鼓動が聞こえちゃうよ。