「お待たせー」

カナタさんが私を引っ張って連れてきたのは、エレベーターの前だった。

奈美ばあちゃんと東条茂人さん、サキさんにレイもいた。

「カナタ、遅い」

サキさんが文句をいいながら、ちらっと私を見た。レイがいるから、気遣ってくれているんだね。私はにこっと笑った。

私は大丈夫だよ、もう。みんながなぐさめてくれたり、元気づけてくれたりしたから、レイを見ても取り乱したりしないよ。

奈美ばあちゃんが、深々と頭を下げた。おばあちゃん、いつの間にか着物に着替えてお化粧もしてる。



・・・・・・そっか、奈美ばあちゃんも一緒に行くんだ。やっぱり、東条さんはおばあちゃんの大切な人なんだね。

「美緒、それにカナタさん、うちの人の危ないところを助けてくれてありがとう。写真なんかどうでもいいのに、この人ったら崖にしがみついてたんだってね」

奈美ばあちゃんは呆れ顔で茂人さんを見ている。

「どうでもいいなんてことないさ。ばあさんと最後に撮ったツーショットだしなあ。ばあさんには見せてやれんままになっとったんで、絶対に持って来なくちゃいかんと思うとったんだ」

茂人さんは、胸元から大事そうに写真を取り出した。今と同じ奈美ばあちゃんと今より少し若い茂人さんがベンチに座っている。後ろには満開の桜。

ああ、いいなあ。長い時間をずっと一緒に過ごして、それでもやっぱり仲良しで一緒にいられた奈美ばあちゃんと茂人さんを、心の底からうらやましいと思った。

「しっかし、風で写真が飛んじまった時はあわてたなあ。そっちの兄ちゃんがいなかったら、もいっぺん死んじまうとこだった」

茂人さんがからからと笑った。・・・・・・歯に海苔がくっついてる。

「あんた、海苔、海苔」

奈美ばあちゃんが自分の歯を指差した。

「ん? ああ」

おじいちゃんはごしごしと口元をぬぐった。

「さっきばあさんの握り飯を15年ぶりに食べたけんど、やっぱりうまいなあ」

「そうかい? そりゃあよかったよ」

奈美ばあちゃんが顔中で笑った。

15年ぶり・・・・・・。そうか、奈美ばあちゃん、ここでだんなさんが来るのを待ってたんだ。15年間ずっと。

「じゃ、上に行きますか」

カナタさんがエレベーターのボタンを押した。