「ていうか、そんな言い訳を、信用するヤツ、頭悪いだろ…。」

イルルがぼそっとつぶやく。
でも、それをお前が言うのかイルル。
魔族の言葉を真に受けちゃったお前が言うのか?
俺は心のなかで激しくツッコミながらも
何も言わないことにした。
きっと疲れるし。

「コイツと関連がないって、どうやったら証明できるんだ。」

リーヴェがニヤニヤしながら言う。

「悪魔の証明って知っとる?存在しないことを証明するのは難しいんやで。」

「あなたと関わりなんてありません。」

レグナくんの目が、
吹雪が出てきそうな冷たい視線になる。

うつ伏せになっているというのに、
迫力がすごい。

「とりあえず、デットレイトの市民兵に引き取ってもらおう。何、脱獄させてんだ…。」

イルルの言い分は正当だ。

しかし、正当だからといって
それを実行するのが難しいから
コイツは脱獄してきたんだろう。

「まぁまぁ、そんな怒らんと、もっと激しく罵ってくれへんか?」

うわぁ…。
吐くものが胃のなかに入ってないけど
胃液吐きそうなくらい気持ち悪い…。

俺がそんなことを考えていると
イルルが何かボソボソと呟いている。

このボソボソ、なんか聞き覚えがあるんだけど。

そう思ってたら、
イルルの魔符が発動して魔族を縛り上げる。

「とりあえず、さっさとこの宿屋、チェックアウトしよう。」

「チェックアウトしても、こいつは俺たちの知り合いを名乗ったんじゃ?証拠隠滅で滅したほうが…。」

ラウザがイルルに言う。

「ラウザ、また宿屋を壊すつもりか?」

イルルは呆れた声でラウザに話しかける。

俺は何も言わなかったけど、イルルと同感だった。

イルルの外見年齢は、
今は子供にしか見えないけど、
実際はラウザよりも年上だしなぁ。

イルル、一応29歳を自称する程度の分別はあったんだな。

「コイツは壊れたベランダから現れた。即ち、1階を通っていない。したがって、店主には把握されていない。」

イルルはそう言って俺の背から降りると
ギリギリと魔族を縛り上げる。

「さっさと出る!」

イルルに強く言われる。

「俺独りならどうとでもできる。」

「イルル、ちゃんと後から合流するのよ。」

ナターシャさんがイルルに声をかける。

「俺がナタとの約束を違えたことがあるか?」

イルルは偉そうにそう言うが。

「あるよ。僕を三時間待たせ…むぎゅっ?!」

俺は慌ててナターシャさんの口を塞ぐ。

「集中力が切れたら魔符の効果はあっさり切れるみたいだから、ナタ様、喧嘩は後で!とにかく、行こう!」

俺はレグナくんの羽を、
イルルの持ち物のマントを勝手に拝借して隠す。
そしてレグナくんを背負って、
チェックアウトに向かった。

「とりあえず、学園の裏手に行きましょう。」

JJが俺を先導してくれた。