勇者34歳

「イルル!」

たった今、話題に上がっていた当人が俺の背後に立っていた。

「その言葉にてめぇの首をかけられるか?」

な、何を言ってるんだコイツは!?
無用な喧嘩を仕掛けるのは止めろと
普段からナタ様があれほど言ってきかせているのに。

俺はイルルの口を塞ごうとしたが。

「ぽこぽん、こいつの言い分を信用すると強力な敵と戦わされるんだぞ。」

「いや、そんなのわかってるし。」

今更何を言い出すのだろう。

「本当にわかってるのか?俺たちは無敗じゃないといけないんだ。」

イルルはそう言うが、いずれは戦うべき敵だ。

「でもそのうち倒すんだぞ?」

「そこまでおっしゃるなら首をかけましょう。」

光の主は

なんでもないことかのように微笑んで

そう言った。

すごく綺麗な微笑みなんだが、
なんだか異質で、違和感があって少し恐いかもしれない。

対するイルルも、感情のない瞳で光の主を見ていた。
何かを見極めようとしているかのようにも見えるが…。



意外にも、先に目を逸らしたのは光の主だった。

「それでは偉大なる勇者。小さな剣士。またお会いしましょう。」



光の主は、また強い光を放って消えた。

俺はイルルの態度に違和感を感じて
理由を聞こうと思い、イルルに近づいた。

イルルは俺が近づく前にしゃがみこんでしまった。

「イルル…?」

「リーヴェが、強い魔力がするって言うから来た。」

イルルはしゃがみこんだままの姿勢で
勝手にしゃべり始める。

「何が強いのかなんて知らないが、さっきのヤツはすごく強い。」

なんでアイツが魔王を倒しにいかないんだ…?

イルルの小さな声は、俺の耳にだけ届いて
周囲の闇に溶けていった。