勇者34歳

俺とリーヴェが酒場に行くと
昼間だというのに酒場が開いていた。

開いてるなら行くしかない。

イルルとナターシャさんが
酒場の正面の喫茶店に陣取っている。
向こうも向こうなりに
情報収集するようだ。



俺が酒場に入ると
比較的若い年齢層の人たちが
酒を飲んでいる。

しかし
トロンコロンで発生した事象を考えると
俺と同年代近辺の年齢なんだろうなぁ…。



「起きたらうちの子と同じくらいになってて…、私が母だと言っても信じてもらえなくて家から追い出されちゃった。」

「それはまだマシなほうじゃないかな…。おいらは娘より年下になってたうえ、知らない男がいる!って包丁持って追いかけ回されてねぇ。」

すごい娘もいたもんだ…。



「今日は町の外の支社に行くはずだったんだけど、顔が若くなってるから別人だと思われて…。」

「うわ、酒ってこんなにすぐ回るもんだったか?」

体が子供になった奴が
酒を飲むのは厳しいかもな。

見知らぬ町人Aに
未成年の飲酒は云々と
説教垂れる義理も義務も理由もない。



「若返って、彼と同じくらいの年齢になって嬉しかったんだけど、彼は熟女フェチだったみたいで、フラれちゃった。」

「元に戻ったらきっとまた仲良くできるわよ、落ち込まないで。」

熟女じゃなくなったら捨てる男とか
ろくなもんじゃねぇぞ。
別れられてよかったんじゃないかと思うが
見知らぬ町人Bに
人生相談の答えを言ってあげる
義理も義務も理由もない。

ついでにリアルに充実した人生を送ってた人を
支援してあげるとか意味がわからない。



「色々あるみたいだな。」

「そっすね。」

どこで何が起こったとかより
どうしたら無駄な若返りを治せるのか
にしか
興味がないというか。

俺本人は別にこのままでもいいんだけど。
むしろこのままのほうがいいんだけど。

酒場は自棄酒を飲みに来た人々が大半だろうか。



「早く元に戻りたいんだけど。」

熟女じゃなくなってフラれた町人Bが
ぶちぶちとぼやいている。

「教会で治してもらえないならマリスイーの図書館だとか偉い教授だとかに依頼するしかないんじゃない?」

マリスイー?
そこには図書館だとか偉い教授だとかがいるようだな。

「無理よ、仕事あるもの。今日は失恋休暇なの。」

失恋休暇とかくれるのかよ。平和な会社だな。