「俺が言ってることは先代の勇者と似てるのか?」

どうしたらいいかわからないから
直球のどストレート投げるしかない。

どうせイルルやリーヴェと違って
策や言葉を弄するのは得意じゃないし。

「ヒゲ以外さえないオジサンのくせに、後ろで守られながら銃を撃つしか能がないくせに、なんで彼女と同じことを言うんですか…。」

すごく貶されたことはわかったけど
レグナくんの声には、
字面ほどの棘はなかった。

「先代の勇者がどんな人だったか知らないし、俺は俺だし。」

レグナくんは黙ったままだ。

「レグナくんにとってはただの任務だろうけど、一応俺らは大人だからレグナくんが任務を遂行しやすい環境くらいは整えるべきだし。」

言葉を
つけたせば
つけたすほど
俺の言葉が薄っぺらくなっていくような気がして
俺はそれ以上、何も言えなくなった。

レグナくんは、泣きそうな顔をして
でも泣かずに遠くの空を見ていた。

これ以上ここにいたら
飛んで逃げられそうだな。

会場に戻ろうとすると
先に大窓が開いた。

「ぽこさんとレグナくん。」

ナターシャさんだった。

ナターシャさんは、
俺とレグナくんを見比べる。

「ぽこさんが、レグナくんを泣かしかけているようにしか見えないけども…。」

ナターシャさんの
正直な感想を聞くと
やっぱりそう見えるのかと思って
エクトプラズムと一緒にため息を吐いた。

「違います。」

レグナくんが一応否定してくれた。

「そうかの。なら特に気にしないことにするかのぅ。」

ナターシャさんはそう言って
俺とレグナくんを見た。

「もうそろそろ生誕祭も終わるからのぅ。」

ナターシャさんはそれだけを言うと
会場に戻っていった。

俺もナターシャさんに便乗する。

「じゃ、俺も戻るから。」

「ぽこさん、ちょっとだけ、いいですか。」

レグナくんに声をかけられる。

レグナくんは俺の手を握ると

「ごめんなさい、あなたを守れなくてごめんなさい、助けられなくて、ごめんなさい…。」

最初はレグナくんが何を言ってるのか
わからなかったけど
次第に、彼が誰に対して謝っているのかを理解した。

多分

謝罪すら聞いてもらえずに
黄泉路へと発ってしまった先代の勇者に謝っている。

俺は先代の勇者じゃない。

そう言うのは簡単だったけど
言えなかった。

どうしようもなくて
開いた手で頭を撫でる。



しばらくすると再び俺たちを探してきた人が
大窓を開けた。

「おふたりさーん、そろそろ戻らないと良家のお嬢さんたちが君らをネタによからぬ妄想を暴走させ始めるんだが…。」

この声はデルフさんじゃね?

「あぁ、取り込み中で立て込み中だったか。とりあえず天使くんはオレに任せて勇者だけでも戻ったほうがいい。」

デルフさんがそう言うと
レグナくんが俺の手を離して
横を向いてしまった。

翼は広がっている。

うーん。

「レグナくん、また後でな。」

俺はレグナくんをデルフさんに任せると
会場に戻った。

良家のお嬢様の
好奇心がほどよく混入した視線が
結構痛かった。



そんなに時間をおかずに
生誕祭は終わり
俺は会場を追い出された。

迷子になる前に
そのへんの使用人の少年を捕まえて
イルルの病室まで戻る。