「ぽこさんですか。」

レグナくんが振り返った。

「うん。」



それ以上会話が続かない。

沈黙が気まずいから
とりあえず何か話しかけることにした。

「レグナくんさ、どうしたらいいかわからなくて脱走するときは、人間が追い付けるところに逃げてほしいんだけど。」

レグナくんの表情が凍りつく。

まずいこと言ったかな?
でもここまで言って、止めるわけにもいかない。

「多分、イルルに悪気はないのもわかってて、でも怒ったから脱走したと思うんだよな。」

レグナくんの羽がばさっと開いた。

開きっぱなしなので
その羽の様子が
レグナくんの
どんな精神状態を表しているのかわからない。

「人間界でうまくやんなきゃいけないみたいじゃん?」

聞いてたことを暴露しちゃってるけど
いいや、言っちゃえ。

「答えがわからなかったら俺が追いかけて答えを一緒に考えるから、人間から逃げないでほしい。」


しばらくの沈黙の後。

「どうして。」

レグナくんが声を絞り出した。
絞り出した、という表現が適切な
そんな声だった。

「どうして、あなたは違う勇者なのに、彼女と同じことを言うんですか。」

レグナくんは泣きそうな声だけど
まだ、泣いていない。

どうやら俺は
先代の勇者と似たようなことを
言ってしまったらしい。

それが
レグナくんの地雷を踏んでしまった、のが
今の状況?

なんか、まずい、まずいぞ。

若い者を
いじめて泣かせた悪いオジサンみたいになってしまうではないか。

どうしたらこの場って
うまいこと収まるんだ…?