勇者34歳

イルルとリーヴェが必死に縫って
俺が祝福をしたローブは
祝福のローブと呼ばれるものらしい。

「オリジナルなのは型紙くらいだな。」

「正規品は丈が長すぎて旅には不向き。研究者や司祭ならそれでいいんだろうけどね。」

イルルとリーヴェが解説してくれた。



祝福のローブが完成して
もっさりと疲れたところで
病室の扉がノックされた。

「誰だ?」

イルルが大声で応答する。

「ボクじゃよ。」

ナターシャさんだ。

「うわリーヴェそれ隠せ隠せ!」

イルルが小声で指示をだし
リーヴェは真っ赤な木綿布を広げて
祝福のローブに被せる。

「どうぞ!」

リーヴェが答える。

他人事ながら
なんと息が合った連携プレイだろうか。



「体調はどうかね?」

ナターシャさんに聞かれるイルル。

「ぼちぼち。」

イルルがあたりさわりない言葉で答える。

「すまぬ、生誕祭なのじゃが…。その。」

ナターシャさんが言いにくそうにしている。

「勇者ぽこぽん、と、先代勇者の仲間だったレグナくんが呼ばれておってのぅ、準備をお願いしたく。」

あれ?

「イルルとリーヴェは?」

ナターシャさんにたずねた。

「その、イルルは、出ないほうがいいと思うのじゃよ。体のためにも、旅を続けるうえでも。」

言いにくそうに答えるナターシャさん。

「…読めた。俺がぶっとばしたどら息子の、親であるところの、シルティア軍のお偉いさんが来るということか。」

「うん、ごめん…。ボクが呼んだわけじゃないけど政治的な理由で彼女を招待しないわけにはいかない。」

「気にするな。元より没落騎士の家柄、相応しい行儀作法は身につけてないし。」

…嘘だ。
イルルは騎士程度の行儀作法は身に付けている。

でも、イルルが嘘をついて、
ナターシャさんの罪悪感を
軽くしようとしているのに

それをナターシャさんに
ばらすわけにはいかない。

「ボクは、リーヴェには、イルルについててほしい。」

「いいよ。」

ニヤニヤとした緊張感の無い顔で
あっさりと答えるリーヴェ。

ナターシャさんは
しばらくリーヴェの目を凝視したが
リーヴェの表情は変わらない。

「じゃあイルルを頼むからのぅ。」

ナターシャさんはそう言って。

「ナタ姫様!お化粧の途中でうろうろしないでくださいっ!」

鬼のような顔して怒るメイドさんに
連れていかれてしまった。

「友達の顔見たかったんだよぅ〜…。」

という
ちょっと困ったかのような
ナターシャさんの声が
どうしようもなく安心感を誘った。

生誕祭が終われば、全部元通りだよな。
山賊討伐から気が休まることがなかった。

不安で神経をすり減らした俺は
そんなことを考えつつ
正装として渡された軍服に着替え始めた。