勇者34歳

「で、なぜこんなところをうろうろしてる?イルルは?」

イルルは
さきほど目を覚ましたばかりで

しかも起きて間もなく
メンバーを絶賛こき使い中なんだけど
潜入中のデルフさんは
それを知らないので事情を話す。



「教会なら…侯爵家の東側にあるけど、ここは西側。」

…。

俺ひとりで行動すると迷子になるって
イルルは考えてなかったのか。

「イルルは起きたばかりだしそもそもイルルは完璧じゃないし。必要性を感じればマカロン氏が勝手に補うと思う。」

旅に出る前は
地図とか見る必要もなかったし
どこに行くのも
だいたいイルルが指示してたし。



デルフさんは
勝手に俺の気持ちを察したのか

「人間は得意不得意があるし、このトシになった勇者なんて苦手を克服する必要はないのでは?」

そう言われて、
なんか妙に説得力があった。

「光の精霊の御心なんざ知らんけど今までと路線変更して30過ぎたヤツを勇者にするのは意味があると思わない?」

ランダムでたまたま当たっただけだと思うんだが。

「ランダムだと思うんだ。じゃあなんでイルルじゃないんだ?」

それもランダムの産物じゃないんですかね…。

「あんなトラブルメーカーが勇者だったらいつまで経っても旅が進まないだろ。」

それはそうだと思うんだけど
クソミソに言うなぁ…。

「方向音痴じゃなくても素手で強くても刀持たせても強くてもちょっとばかり秀才気取ってても仕事ができても、それは意味がないんでしょ多分。」

その言葉でイルルの長所が全否定された気がするんだけど!?

「まぁそういうことだ。悩むな若人。」

もう若くありませんけど?!

「うるさい、オレより年下なんだから若人で間違ってないっ。」



デルフさんが言ってることは
とてもまともで
とりたてて間違ってないんだけど!

ぜんっぜん間違ってないんだけど!

重火器ショップのど真ん中で
女装した36歳のオッサンに
励まされる事実に

違和感しかなかった。