勇者34歳

「もやし…?」

リーヴェがなにげなくがっかりしてるが
それに構ってる余裕もない。

「イルルはナタ姫様の後輩にあたるのかな?」

デルフさんが確認する。

「そうなるけどのぅ。」

「イルルさんってナターシャさんの後輩なんですか?」

レグナくんがナターシャさんを問い詰める。

「王立大学の後輩にあたるのぅ。」

「その事実を誘拐犯が知ってるとしか思えないんだよな。」

そうか。
犯人が山賊絡みなら
イルルを賞金首としてつきだすよりは
ナターシャさんとの関連をたてに
政治的な要求をする可能性が高い。

ナターシャさんもリーヴェもバカじゃない。
その可能性に気づいたのは
ほぼ同時だったと思う。

重苦しい沈黙がこの場を支配する。

「みなさん気づいたようで。」

イルルのサカヅキの兄は
ここに到着した時点で
答えを出していたとしか思えなかった。

「一般人としては、サムライ1人にかまけてないで、別のメンバーを雇って早々にハルシオンを去るのが賢明かな〜。」

確かに言われたとおりなんだけど。
サカヅキのきょうだいの関係性が
どのくらい強いキズナかは知らないが
それはサカヅキの兄が言うことなのか?

「そんな顔でにらむなっての。あくまで一般論。オレは休暇届けを出してここに来たんだ。」

「つまり、山賊討伐に参加しろ、と。」

「そゆこと〜。」

レグナくんの言葉を
あっさりと肯定するデルフさん。

「ナタ姫様には正規軍の指揮権はないが、プラティナム軍の指揮権はあるんだろ?」

「そのとおりだがのぅ。」

ナターシャさんは
何かを推し測るような顔で
デルフさんを見ている。

この男、どこまで調べてきたんだ…?

「警備隊の情報網はバカにならんのぅ。」

ナターシャさんが、
腰かけていたベッドから立つ。

「イルルはボクたちが取り戻す。」

ナターシャさんは俺たちを見た。

「それでいいでしょ?」

俺が反対するわけもなく
リーヴェが反対するわけもない。

「ぼくとしてはイルルさんなんて置いていきたいんですけどね。勇者さんが行くなら仕方ないですね。」

レグナくんも最終的には賛成してくれた。

「じゃ、オレも行くから。」

はい?
デルフさんの突然の発言に
4人揃って固まった。

「イルルを正規軍に確保させるわけにはいかないでしょ?」

そういうアンタは警備隊だろうが。

「基本的にサカヅキのきょうだいはきょうだいを売ることはしない。」

いつから警備隊員は任侠モノになったんだ…。
まあいいや。

「大丈夫ですよ、ぽこぽんさん。」

レグナくんが天使の微笑みを浮かべた。

「いざってときは人1人抹殺するのはかんた…むぎゅっ?!」

俺はレグナくんの口を慌ててふさいだ。
天使のくせに物騒なこと言うな!

「じゃあちょっと出掛けるから、デルフさん、ぽこさん、ついてきてくれるかね?」

ナターシャさんに指名され
俺はお出掛けに付き合うことになった。

「リーヴェさんはお留守番で。レグナくんは空を飛んできてくれたまえ。」

レグナくんは何かを察した顔をした。
ナターシャさんは無言でうなずく。

そして俺たちは宿屋を出たのだった。