「でも未だに、民衆にとってはナターシャ姫なんですね。」

「そのようじゃのぅ。」

ナターシャさんは窓の外から
ハルシオンの町並みを見る。

正規軍が巡回する姿を見て
安心したような顔をした。

でも、ナターシャさんの表情は
すぐに曇ってしまう。

「この頃は山賊が出るようだのぅ。」

ナターシャさんはそう言うと
なんとも言えない顔をして
また紅茶を飲み始めた。



俺はもの悲しくなってしまった。

その時代においての状況はあると思う。

それでも
本来高貴な身分で
たくさんの民に愛されたナターシャさんが
普通の人になったのは悲しかった。

これも
魔界が荒れたことによる
弊害なのだろうか。

「はいはい、ボクの昔話はここまで。」

ナターシャさんが
ぱんぱんと手を叩いて
みんなに言った。

「他にもやることはあるんだからさっさと散りなさい。」

そう言うとナターシャさんは
部屋から出ていった。

イルルも、のろのろと部屋を出ていく。
リーヴェはイルルについていった。

部屋には
俺とレグナくんが残された。