極力、走って帰るのだけは避けたい。


目の前に傘があるのだから、
欲しいと純粋に思う。




「じゃあ、その傘を私に貸してくれ」




傘を指さしながら理恵が言う。


彼女の態度は実に呆気なく、
有り難さが全く伝わってこない
冷めたものだった。




「それが人に頼む態度な訳ェ?」

「そうじゃないのか?」

「まぁ、どうでもイイけどさ。帰るなら早く帰ろーや」

「は!?」




突拍子もない昴の言葉に驚く理恵。


窓の外は暗闇に包まれ、
雨の降る寂しげな音しか聞こえない。




「だってお前に傘貸したら、オレが濡れるじゃん」

「......相合い傘か?」