もう、仕方ないと諦めたつもりだった。



でも、実際見ると、名前のつけられない感情が湧いてくる。




電車が動きだし、あわてていつものシートに座る。




いつもは乗った時にしか見ない顔を、何度も不躾に見てしまった。


今まで見れなかった分を取り戻すように。




けれど、彼と視線がぶつかる。


完全にばれてしまった。




「………っ!」




「………」




何事もなかったように逸らさなきゃと思うのに、逸らせない。



彼の強い眼光に捕らわれてしまった。




暫くして、彼がふっと微笑むと、緊張が解け、周りの音が耳に届く。




『S高校前、S高校前です』