トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐



 * * *



…………厄介なことになった。



と、私は眉間に寄ったしわを指でのばした。





彼女は名乗らなかったけれど、その声や現状に心当たりがあった。


同じクラスの影山彩希(かげやまさき)。


誰とでも仲良くなれる雰囲気と性格を併せ持ったなかなかの美人さん。



最近、表情が暗いことがよくあると思ってたけど、このせいですか。




男を恋愛対象として見ていないのか、浮わついた噂のない人で、美人なのに珍しいと思っていましたが。


なるほどそういうことですか。

既に心に決めた殿方が居られましたのねうふふ。






この辺で有名な進学校の制服を着ている、某アイドルグループのインテリキャラ似のイケメン。

上り車線での通学で影山彩希よりも前の駅から乗ってきている。


たったこれだけの手がかりから、ただ一人を見つけ出さないといけない。


これは、骨が折れますねぇ。




影山彩希の置いていった荷を拾ってしまったが運の尽き。


『トイレの神様』改め、安田野枝の災難が始まった。






………かに思えた。







「『この辺で有名な進学校の制服を着ている、某アイドルグループのインテリキャラ似のイケメン』なら、見たことあるぜ」



「うそっ、いつ、どこで!?」




翌日の昼休み。



中庭全体がよく見える2階の音楽室で、私は浪瀬と弁当を食べていた。

もちろん、嫌々。



気付かれないように教室を抜け出し、居座る場所も毎日変えているのに、何故かこいつは必ず現れる。


友達多いんだから、そっちで食べろと何度言ったことか。




……最近は諦めているけど。



邪魔しないから許容しているけど。


寧ろ役に立つ事があるから感謝することもあったり。

するのは、この際どうでもいい。