トイレの扉の向こうから、声が聞こえた。
変声期前の男の子の声だった。
「ごめん、入るところ間違えた!」
「まってまって、間違ってないよ。僕に会いに来たんでしょう?」
あわてて出ようとしたのを、男の子の声に止められた。
「初めまして。僕がここで、恋の相談に乗ってるんだ。トイレの神様って呼ばれてるよ」
わたしが後々思い出して恥ずかしくならないよう、気を遣ってくれてるんだ。
優しいなぁ。
「ふふっ、そうなの。ありがとね」
「とりあえず、悩み事を話してごらんよ。きっとすっきりするよ」
わたしはその言葉に甘えて、電車での出来事から今に至る経緯を全て話した。
確かに、胸のモヤモヤが少し晴れた気がして、軽い挨拶をしてトイレを出る。
今日は、顔も名前も知らない人に助けられてばかりいる。
いい1日だった。
ここ最近重くなり続けた肩の荷が、少しだけ降りたような気がした。


