そんな日がどれだけ過ぎただろうか。
ある日校内を歩いていると、耳に飛び込んでくる会話。
ひそひそ声のはずなのに、やけに鮮明に聞こえた。
『校舎裏に一番近い女子トイレには、恋の相談に乗ってくれる神様がいるんだって』
『恋だけじゃなくて、ペットを見付けてくれたって人もいるらしいよ』
顔も名前も知らない、噂好きな女子生徒の話は、あたしにとって、暗闇にさす一筋の光だった。
善は急げとばかりに、その日の放課後。
『トイレの神様』の元へ、人目を気にしながら走った。
「神様っ…いるんですか!?」
扉を開け放つと同時に口をついて出た。
相当切羽詰まっていたらしい。
「……ははっ…なーんて、神様なんて、ただの噂だよね」
冷静になった頭で考える。
必死になっていたのがバカらしくて、乾いた笑いが漏れた。
走ったせいで乱れた息を、何度かの呼吸で落ち着ける。
余計重くなった気がする肩を丸めて帰ろうとした時。
「噂かどうか、確かめてみるかい?」


