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翌朝。






周りに人が居ない時を見計らって、竹中麻晶の下駄箱に封筒を入れた。



陰からこっそり封筒が受取人の手に渡ったのを見届けてから、教室に戻る。






その頃には結構人が集まっていて、浪瀬の姿が視界に入ると、慌てて顔を逸らした。




今のはあからさま過ぎたと後悔するも既に遅い。





「浪瀬、何ニヤニヤしてんだ、気持ち悪いぜ」



「ちょっと思い出してな」





私は席についてから、それらの声をシャットアウトするように文庫本を開いた。



この本は昨日、北村美友紀先輩に進められて買ったものだ。





結果だけいうと、彼女は竹中麻晶を好きなわけではなかった。








北村美友紀先輩は、あの大型本屋に毎日通っていて、竹中麻晶を頻繁に目撃していた。



初めこそ気にしていなかったが、彼の手にある本は自分の好きな作家のものだった。


よくよく見ていくと、好みが一緒であることに気づく。


それから彼を意識し始めたということだ。



普通なら、『友達になりませんか』なところだが、彼女は男女の友情はありえないという少々古風な考えの持ち主。


告白したのも、本について語り合いたいという勢いがあまって告白した形になったらしい。




要は、彼女の『付き合ってください』は『お友達になりましょう』と同義だったということだ。





今朝、竹中麻晶に宛てた手紙にはこのことを書いた。



これからどうするかは、彼次第。






予鈴が鳴る。





本の中の主人公は泥棒で、悪人から金を巻き上げていた。


そしてそれを、善人に配るのだ。




連作短編で読みやすいし、主人公の鮮やかな手腕に毎回感嘆の息が漏れる。




さすが、先輩が勧めるだけありますね。




きりのいいところまで読めたそれに栞をはさみ、ぱたんと閉じた。