想いが通じ合うことは、素敵なことだ。

双方幸せになれるよう、サポートしよう。

縁結びする事こそ、トイレの神様の存在理由だから。

だが、繋がってからの追跡調査はしていない。

……別れは見たくないんだ。

それが例え、円満だったとしても。

神様としては、失格だろう。

でも、繋げるところから手伝ったのだ。

思い入れがあり、私の考えを押し付けてしまいそうで。

なによりも別れは、繋げたことは間違いだったという証明のようで。

我が自尊心をいたく傷つけるのだ。








当事者になってわかる。

神様に縋りたい気持ち。

彼は本当に私を思い続けてくれるのか。

見えない未来に不安しかない。


裏切られたと気付いて傷つかないよう、常に疑惑という名の保険をかけておく。


本気になって、遊びと切り捨てられてはたまらない。


怖いんだ。


ハッピーエンドのその先も、それ以上の幸せが続いていることを想像していたい。

手に入らないうちが華。

手に入ると、途端に価値のないものに成り下がってしまう。

彼の場合、とくにその傾向が強いように思う。


振り向かなければ、私の元に留まってくれる。


という後ろ向きな予想を裏切ってくれることを祈ろう。

相思相愛の物語が好きだ。

だから今は、彼の気持ちの向いてる今だけは。

幸せな夢を見ていたい。

なんだかんだ言っても、離れる事を嫌だと思うくらいには。



浪瀬忍が好きなんだ。



一度知ってしまうと、知らない頃には戻れない。

いざ別れた時、この幸せだけを糧に生きていけるように、本気でぶつかってみようか。

と、ぼんやり考える。

だが、覚悟のない私の口から出るのは別の言葉。








「別れたくなったらいつでも言ってください。待ってます」



「残念だったな。んな期待には応えられそうにない」



ぐっと顔を寄せられて、上体を反らす。

バランスを崩した腰を支えられ、引き寄せられた。



「………何か?」



「いつか俺以外見えなくしてやるから、覚悟しとけ」



「別れる覚悟だけしておきますよ。なんたって、我が彼氏様はかなりおモテになりますものね。超絶美人に言い寄られ、コロッと心変わりする可能性がゼロじゃない」



「お前、今、彼氏って……!」



「あらら、違いましたか」



派手に勘違いやらかした。

図々しいうえに、恥ずかしっ。

顔あっつっ!

こっち見んな。



「否定すんな、肯定しろ。俺には野枝だけだ。お前にもわかるように、じっくり教えてやるよ」



「…………お手柔らかに」



嬉々として語る浪瀬に、苦笑を返すしかなかった。


告白スポットを、恋愛の意味で使う羽目になってしまった。


それもいいかな。

と頭の隅に在る以上、どっか取り返しのつかない部分のネジがぶっ飛んでるなと、別の冷静な部分が主張する。


答えの出ない脳内会議を切り上げて。




迫る浪瀬忍のお綺麗な顔を、まぶたを閉じて受け入れた。