約束した放課後。
私は、浪瀬と会う場として、告白スポットとして有名な校舎裏を選んだ。
なんとなく足が向いたのだけど、思い返せばここは、トイレの神様始まりの場所でした。
告白現場を目撃し、校内トップクラスのイケメンが性格ブサイクと知り、何度も縁があり、すったもんだ。
過ぎてみれば、しみじみ感じる。
浪瀬の野郎ばっかじゃねぇか。
トイレの神様の歴史は、浪瀬忍なしでは語れないって?
今更な事実に、身体がズーンと重くなった。
それを振り払うように、かぶりを振る。
後ろには、隠れていた木と背の低い緑。
横の方には、放課後居座ったトイレ。
正面校舎の陰からは、待ち人が来た。
毎度の事ながら、場所を伝えてないのにこられると、ストーカーかと思ってしまうよ。
「よぉ、大事な話って?」
飄々としてやって来た彼に、既視感を覚える。
以前にも、彼に別れを告げる目的で呼び出した。
私にとっての告白は、恋愛という意味ではないらしい。
「来てくれてありがとね。たいしたことじゃないんだけどさ……」
数歩の距離をおいて正面に立つ浪瀬に、礼を述べてから。
「これ以上のトイレの神様継続は困難と判断しましたので、浪瀬と私の関係はここで終わり。短い間でしたが、助手、お疲れ様でした」
本題を一息で告げて、ニコリと笑む。
「……………はぁ?」
随分と間を空けての間抜けな声。
「聞こえませんでしたか?これにて私と浪瀬の関係は終わりです、さようなら。と申し上げたのです」
「………はぁ?」
「君と関係を持つようになって半年。色々ありましたねぇ……。いやはや懐かしい」
「話飛びすぎだろ。しかも誤解を生みそうな発言があったぞ今」
「当事者が、誤解するわけがないじゃない」
したらそれ、さぞかし素晴らしき夢を見たのでしょうねぇ。
脳内花畑野郎め!
まぁ私も言葉選びを間違えた気がしなくもなくなくげふんごほん。
「………えー、つきましては、浪瀬君最後の仕事としまして、トイレの神様はいなくなったと噂を広めてもらいたいのです」
人気者の浪瀬ならばたやすいことでしょ。
「理由はそうだね、八百万の神が出雲で一堂に会するためとでも……」
「今何月だと思ってんだ」
10月は、とっくに過ぎてましたね。
「ではまた別の言い訳をば考えてくれたまえよ」
「お前はいつもながら勝手だな」
「はて、なんのことで?」
へらっととぼけてみせる。
「むしろ、お前が俺様に対して勝手じゃなかったことはないな」
あれれー?
俺様浪瀬様がなんかいってるお?
「私より、俺様の方が勝手だったと思うなー?」
浪瀬から気持ち悪いと評判の、平凡ぶりっこスマイルを繰り出す。
「ついに野枝も俺様デビューか?」
「貴様の事だよ!」