浪瀬の姿を探して校舎を歩いていると。



「伊藤翔平。お前だよな」



ちょうど、探している彼の声がした。



壁に身を隠し、戸の隙間から覗く。


蛍光灯の明かりに照らされた教室。


そこに居るのはメイクをとった浪瀬忍と、浪瀬に情報提供したらしいイケメン伊藤翔平だ。



「……………浪瀬。いきなり呼び出して、何言ってんだ?」



「不自然なんだよ。お前は当事者のくせに、やけに噂に詳しかった」



「そんなこと………。俺の噂なんだから、詳しいに決まってるじゃないか」



「逆だ。当事者だから、知らない筈なんだ」



違和感はあった。


普通、当人には知られないよう広まるはずの噂が、当人中心に広まっている事が正体というのなら。



「この一連の噂を広めたのは、伊藤。お前だ」



「言いがかりだね。俺にはそうするだけの理由がないよ」



「そりゃな。一見お前にはなんの得もないように思える」



「ほらね」



「だがな、お前が岡田夢菜を好きだと仮定するとどうだろう。説明がつく」



私も、伊藤翔平も、目を丸くした。



「…………ずいぶん突拍子も無いことを言うんだね」



「だとしても、それが正解だ。違うか?」



自信に溢れて言い切る浪瀬。


その迷い無き瞳にやられたのか、伊藤は瞼を閉じ両手を上げた。



「俺、さ、聞いちゃったんだよね。トイレの神様に相談するところ」



そして語るのは、今回の経緯。







校舎裏の告白を断った帰り。

あの噂のトイレの神様への相談話を聞いたんだ。

平井が俺を好きだって。

そん時はまたかと思って気にしてなかった。

次の日も、告白を断った帰り、トイレの神様への相談話が聞こえてさ。

岡田さんが大逸の事を好きだって言ってて、ショックだったな。

そして、岡田さんが帰ってから、平井のゲラゲラ笑う声が聞こえてきた。

次の日の朝、平井はひとりで笑うのに飽き足らず、岡田さんをクラスの……果ては学校中の笑い者にしたんだ。

許せなかった。

面白おかしく騒ぎ立てる奴らも、好きな子ひとり助けに行けなかった俺自身も。

暫くして、岡田さんが、平井が好きなのは俺だと広めようとしているのを知って、俺も広めた。

あの時何もできなかった俺の罪滅ぼしだ。

結果は知っての通り。

噂はよく広まってくれたよ。

案の定、平井は俺が平井の事を好きだと勘違いして、告ってきたから、盛大にフってやった。

これで、平井に岡田さんと同じ目にあわせた。

同等の復讐はなされたことになる。








「俺は、少しでも岡田さんの役に立てたかな?」



「知るかよ。本人に聞け」



不安げな伊藤翔平を浪瀬忍は斬り捨てた。



「俺は、真実が知りたかっただけ。お前らの事情に首を突っ込むつもりは毛頭ない」



話は終わったとばかりに教室を去る浪瀬。



残されたのは、罪の意識と純粋な恋心だった。