「野枝、聞いてたか?」
「うん」
浪瀬の合図で校舎の陰から出る。
先程まで岡田夢菜が座っていたところに腰を下ろし、足を浮かせてぷらぷらさせた。
ずっと立ってて脚が痛いわ。
けど、浪瀬のお陰でこの一連の事件の姿が見えた。
「やっぱり、か」
「そうねぇ………」
彼の声に頷き返す。
浪瀬が彼女達に聞いたのは、一般的なものばかり。
だからこそ、答えに個性が出る。
黙秘。
協力する気がない。
それどころか、探すなと。
2人とも、何か隠しているのは明白だった。
以上により、導き出される答えは単純明解。
「2人とも、偽者が誰か知っていた。なぜなら、自分自身だから。ただ、偽者探しされると自分に行き着く可能性があるので知らないふりをした。違うのは、平井美友は自身の噂を広めた神様が岡田夢菜とは知らないということ」
こう仮定すれば、状況は説明できる。
「神様にバラされた岡田夢菜は、ひょんなことから神様が平井美友と知り、自身がされたのと同じ内容。彼女の好きな人を広め、平井美友が神様がバラしたと騒ぎ立てた。そして今に至る。で、どうよ?」
「概ね同意だがな、岡田夢菜はどうやって噂を広めたんだ?」
「それこそ簡単な話。噂好きの人の前で話せば、それが勝手に広めてくれる。もちろん、話の出どころなんてのも広まらない。これでどう?」
「ふむ………そうか……………」
浪瀬は長い脚と腕を組み、まだ難しい顔をしている。
私の推理は間違っているのでしょうか。
彼女達と実際に話した浪瀬にしか感じ取れない何かがあった?
やがて黙考を終えた彼が、口を開いた。
「……偽者を成敗する件はどうなった?」
「それはあれだ。………そう、喧嘩両成敗」
「お咎めなし、か」
「んー。思うに、今更私が何をできるというのか」
「今更だな」
ほんと、いまさら。
「んじゃ、今日のところは解散ということで」
「うん、またね…」
挨拶もそこそこに、浪瀬はここから姿を消した。
意外とあっさり引き下がりましたね。
いつもならくだらないことをだべっていたはず。
彼の消えた校舎の角をぼんやり眺めていると。
「神様、居ますか?」
背中の壁から女子生徒の声がした。
ここって、トイレの神様がいる女子トイレの壁の外だったんだ。
「わたし、神様が相談したことを広めたんじゃないって、信じてますから!」
言って、女子生徒の足音が遠くなる。
中で聞くのと声の鮮明さは変わらない。
見上げれば、トイレに通じる窓が開いている。
周りを見れば、そこには告白スポット。
私が謎解きした際の浪瀬の反応には違和感があった。
きっと彼は、第三者の立ち聞きの可能性に気づいていた。
私の推理に穴が見つかったのだ。
もしかして……。
いや、もしかしなくとも、浪瀬は犯人に辿り着いている。
きっと浪瀬は、真犯人に接触を図りに行ったんだ。
さて。
私の前で披露せず、わざわざ犯人の元に足を運んだ彼の推理、拝聴いたしに行きましょうか。