「どうぞ」



「………」



2人並んで腰掛けてから、浪瀬が再び話しを振る。



「話しっていうのは、トイレの神様のことだ。君がトイレの神様に好きな人をバラされたという噂を聞いて、興味を持ってね」



「いいよ。なんでも聞いて」



「助かる」



すんなりと受け入れてくれたということは、聞いて欲しくて仕方がないものととれる。



「………実は俺、トイレの神様に相談に行こうとしてたところなんだ。そんな時に情報漏洩だって話しが広まってさ」



「そうなんだね。……やめといた方がいいよ。次の日の朝、顔見た瞬間に広められるから」



「平井美友に言われたんだよね」



「えっと、そうなんです。……ぁの……神様に話したのに、平井さんは知ってて。……平井さんを通して言ったっていうか……」



歯切れの悪くなった彼女を怪しむのは私だけじゃないだろう。



「でも、神様だって信じて話したわたしが悪いから、神様に対しては怒ってないよ」



「……平井美友も神様に情報漏洩されたらしいけど、バラされた仲間として、どう思ってる?」



「まず、仲間なんて思ってないよ。あれはただの自業自得。あの人、性格悪いから…」



「へぇ」



「むしろ、良くやったって褒めるわ」



嬉々とした彼女に波長を合わせて、浪瀬が問いを投げる。



「トイレの神様の情報漏洩が公になったのは、今回が初めてだけど、どう思う?」



「………何が聞きたいんですか?」



「俺は、トイレの神様と、情報漏洩した犯人は別人だと考えている」



「ふぅん?」



「今まで多くの相談を解決してきたトイレの神様が、悪い事するはずないだろう」



当然のように宣言する浪瀬を彼女は鼻で笑い、肩をすくめる。



「残念でした。被害者はここにいます」



「トイレの神様は、校舎裏に一番近い女子トイレにいる」



「……はぁ?」



浪瀬はたっぷりと間を空けて、自身の声に意識を向けさせた。



「神様と呼びかけて、返事があったなら、それは神様だ」



「…………」



「校舎裏に一番近い女子トイレに入るだけで、相談しに来た奴が勝手に聞いてもない事ベラベラしゃべるんだ。誰でもトイレの神様になれる。…………君も、話したんじゃないか?」



「………」



無言は肯定と受け取る。



「俺はトイレの神様名誉回復の為、その偽者を探しているんだ。心当たりは…」



「言ったでしょ、怒ってないって。何もしなくていいから」



彼女は浪瀬の話しに声を被せる。


そして、ハッとしたように早口になった。



「悪いけど、わたしは何も知らない。それに、本当に神様の事を思うなら、神様の正体を暴こうとするような野暮な事はやめた方がいいと思う。じゃ、わたし、用事あるから、さようなら」



立ち上がると同時。


逃げるように走り出した岡田夢菜の姿が校舎の壁に消えてから。